※人気のある記事なので再び書き換えました。2019年11月11日
DAWのソフトって今すごくたくさん選択肢がありますが、広告っぽい記事が多いのでいいことしか書いてないことが多く、みなさんどれにすべきか悩んでいるんじゃないでしょうか。結論から言えば、一人勝ちしているソフトというのはどこにもなく、一長一短というのが実情です。ここではその選び方を紹介していきたいと思います。
筆者の僕はプロのレコーディング・エンジニアをやっているのですが、仕事で使うソフトはほとんどAvid Pro Toolsで、これに関してはそこそこ詳しい方ですが、最近はAbleton Liveもちょっといじっています。しかし他のソフトに関しての評判も聞いて情報交換することも多く、それなりの情報は得ていますのでPro Toolsを記事の中心に添えますがそのへんも踏まえて読んでみてください。僕はそういうことでマック・ユーザーですが、記事としてはウインドウズ・ユーザーも同等に読めるように書くつもりです。
各ソフトのメリット、デメリット
Pro Toolsの話に行く前に、近年話題になっているDAWソフトの特徴をプロのエンジニアの視点からわかりやすく説明したいと思います。
Ableton Liveは後発ということもあってユニークな機能を搭載している人気のソフトです。外部コントローラーとの連携や、最近ではiPadとの同期などにも力を入れており、名前通りライブで使用するのにも面白い機能が充実しています。ほとんどの操作をプレイバックを止めずにやれることや、テンポを自由に合わせたり変更したりが簡単にできるほか、「クリップ」と呼ばれる単位でアレンジを自由に組めることからダンスミュージックをやっている人に人気があります。
作曲という点で言えば便利で申し分ないソフトですが、録音したオーディオを細かく編集していくような作業は機能も少なく正直やりづらい面が多いです。再生する音も以前よりはかなり良くなりましたが(ソフトによって音は結構違うんです!)、どちらかといえば雑味が多く、標準で付いてくるEQやコンプなどのプラグインの音質・操作性にはクセのあるものが多いです。ただPushやLaunch Padを使ったプレイをしたいならこれ以外の選択肢はないと思うのでループを多用して音楽を作る人にオススメできます。
とても歴史のあるソフトで機能も充実しており、音質も良く、使い易いです。プロの現場でも使っている人を多く見かけます。以前はダンスミュージックを作っている人が使っているイメージでしたが、最近は他の機能が充実してそうでもありません。
もし一からシステムを組むつもりでCubaseを使うならコンピュータはMacよりWindowsの方がオススメです。CubaseのMac版ももちろんありますが、Windows版の方が安定しているという人は多いです。音もいいです。
これも歴史の古いソフトですが、なんといってもメリットはソフトの値段が安いこと。値段の割に最初から付いてくるライブラリが充実しているので、シンセなどの音源を全く持っていない人でもこのソフトを購入するだけで一式揃ってしまうという優れものです。Garagebandと操作性が共通しているのでGaragebandからの乗り換えも簡単です。デメリットはWindows版がないこと。案外バグが多いというユーザーの声も聞こえますが、細かいことをやらなければそんなことは気にならないでしょう。
オーディオの編集は随分やりやすくなりましたが、そこそこ。MIDI編集はCubaseと並んで定評があります。
Cubase、Logicと並んで昔からあるソフトで、使いやすさには定評があります。しかし最近あまり使っている人を見ません。使っている人は昔からこのソフトを使っているという人が多いです。悪くない選択肢だとは思いますが、あえてこれを選ぶというメリットも個人的にはあまり感じませんが、MIDIとかは使いやすし、ユーザーインターフェイスも新しくなり全体的にブラッシュアップしてきている感はあります。新しいバージョンはバンドルするプラグインも増えました。見た目もPro Toolsばりに見やすくなっています。安定性はどうなんでしょう? 最近の情報は実はあまりよく知りません。
比較的新しいソフトですが、「音がいい」という評判があちこちから聞こえてきます。
使い方もわかりやすい方で、MacBookのような小さな画面のパソコンでも表示のカスタマイズが充実しているのであまり困りません。デザインもいいです。最初から付いてくるプラグインの質も非常にいいですがLogicほど数はないです。一般的な知名度はまだまだ低いですが総合的に見ると選択肢候補として不足はありません。僕も使っていますが、いいソフトだと思います。
ただ、Pro Tools使いである僕からしてみると、オーディオの編集などでできないことが多く、機能的にはまだまだといえますが、あまり複雑なことをやる予定のない人には問題にならですし、安定性もあるほか、レコーディングトラックがPro Tools Softwareのように制限がありません。
このように、最近ではどのDAWソフトもそれなりにいいものに仕上がってきています。
Avid Pro Toolsのメリット・デメリット
2019年の段階で言えることですが、Pro Toolsを使っている人は僕の周辺でもすくなくなってきました。ほとんどの人はLogicを使っています。理由は簡単でLogicはとにかく値段が安いのです。
Apple Logic Pro Xが¥24,000なのに対し、Pro Toolsは永続ライセンスが¥70,000(税別)。結構違います。しかもLogicにはしこたまプラグインの音源が付いてくるのに対してPro Toolsに付いてくるのは最小限といってもいいくらいで、プラグインを別途購入することはある意味前提となっています。
Pro Toolsが充実しているのはミックスに必要なプラグインで、付属のものはどれもクオリティが高く、はっきりいってAbleton Liveの付属品などでは比較にならないくらいです。特にPro Tools 2018以降に付いたオーディオ編集の新しい機能ももはや他のソフトの追随を許さないくらい便利です。最新版ではプレイバックしながらプラグインをインサートしても音は止まらず、バージョン2019.10は安定していると思います。
特にドラムのマルチトラックの編集などは他のソフトでやる気が起こらないくらい簡単で多機能です。MIDIの機能も充実したので今となってはそんなに打ち込みも不便を感じないでしょう。
近年Studio Oneで言われている「録音した音がよく聞こえる」という件ですが、最新のPro Toolsも実は結構いいのです。MIDIが中心ならLogicやCubaseはいいですが、生楽器や歌をよく録音する使い方ならPro Toolsは断然オススメです。
オーディオの編集
もともとオーディオ・レコーディングから始まったようなソフトですので、オーディオの編集に関しては他のソフトの追随を許さないくらい簡単かつ多機能です。
例えばボーカルを録音して、いろんなテイクからいい部分をつなぎ合わせ、場所によってはタイミングのズレを調整してつなぎ目を目立たないように修正していく、というような作業はやったことのある人なら分かると思いますが、かなり面倒くさいものです。こう言う事を早いスピードでできます。
テイク1をキープして裏にとっておき、テイク2、テイク3を録音…というふうにテイクを重ねて全テイクをキープしておく作業も簡単。カラの「OKテイク」を作り、あとは各テイクのいいところだけをショートカットでOKテイクトラックにコピーしていくことができ、テイクが選び終えたらつなぎ目をクロスフェードで整えていく…というような作業が非常にやりやすいです、ドラムのようなマルチチャンネルで録音した楽器でもグループを組んでまとめて同じようにテイクのつなぎ変えができます。
あとはタイミングを修正する際に使う「ナッジ」。キーボードのキー操作で波形のタイミングを前後に動かす作業ですが、これもPro Toolsのが一番使いやすいと思います。キーを1つ押した際に移動する単位を音符/秒/サンプル/タイムコード/フレームに変更できるほか、その量も自由に数値変更できます。表示は小節単位だけどナッジは秒単位で、なんてことができますが、ここまで自由なナッジのできるソフトはなかなかありません。1キー分の移動量も数字で自由に指定可能です。クリップの開始と終了位置は移動せずに中身の波形だけ時間軸を動かすなんてこともできます。
クロスフェードも1キーでできます。トラック全体を選んですべての切れ目に一発でクロスフェードを入れることもできます。既存のクロスフェードはそのままにして、入ってないところだけ現在のフェードを入れる、みたいなこともでき、とにかくプロの現場で培われてきた「こんな機能あったら便利なのに」を次々と搭載してきて現在に至ってます。
あとよく使う機能のほとんどが画面に見えているということがわかりやすさの要因でしょうか。裏に隠れていたりするものが極力少なくなるようにできてます。
インサートされているプラグインもどこに何が刺さっているのか全部のチャンネルを1つの画面でいっぺんに見渡せます。センドの送り方もメーター付きで見られます。トラックを選択するまでは中でどんな処理されている見えないソフトもたくさんある中でこれは便利です。プラグインの一覧は波形の編集画面にも出せるので、この1画面でほぼすべての作業を済ますこともできます。
MIDI編集機能
MIDIが弱いといろいろ言われてきましたが、現行バージョンではさほど困りません。LogicやCubaseほどではないにしても、結構使いやすいです。
安定性
バグもないわけではないのですが、比較的安定した動作をします。これはスペックに出てこない要素ですが、落ちたりすることが比較的少ないソフトと言っていいと思います。やはりプロの現場で使われていることも大きいでしょうね。バグも早いペースで修正される方だと思います。ちょっと前のバージョンは評判が良くなかったですが、現在のものは信頼性も高いです。
最新バージョンでは音もさらによくなり、動作が軽くなりました。一昔前のバージョンと比べると同じ処理をやらせても余裕があります。
プラグイン
最大のデメリットだと思いますが、まずAU、VSTといった一般的なプラグインが全部使えません。使えるのはAAXというAVID独自フォーマットのプラグインだけです。市販のプラグインの多くがAAXに対応しているので購入するには問題ありませんが、なかにはAAX版を出していないものもまれにあるので注意が必要です。また標準で付いてくるプラグインの精度が高いですが種類自体はそんなに充実していません。ミックスとかやる人はいろいろ買いたくなると思います。それとプロ用バージョンではない通常の製品では同時録音トラックが32までしか作れず(再生は48kHzで128)、ライブ録音などでは足りなくなることがあります。
互換性
OMF、AAFといった汎用フォーマットでの書き出し、読み込みができるので、他社ソフトで作ったデータをある程度受け取れるできるようになっているのですが、これではプラグインの設定などは受継ぎません。
そもそもAbleton LiveなどではOMF、AAFが扱えないので、LiveのセッションデータをそのままPro Toolsに持ってくることなどはできません。
一般的にプロの現場ではもう面倒くさいのでセッションの頭から各トラックを書き出して外に持ち出すというのが一般的になっているのでOMFやAAFでも受け渡しテクニックを身につけている人はプロでも多くはありません。
AA TranslatorというソフトでDAWソフトごとの変換をするテクニックもありますが、これはWIndowsバージョンのみとなります(一応Macでも使える方法はある)。
オフラインバウンス
かつてのPro Toolsのバージョンではプラグインの仕様の問題でリアルタイムバウンスしかできず、例えば2時間のライブ録音のミックスなどはマスターを書き出すのに2時間かかっていました。他社ソフトがオフラインバウンス(倍速的なマスター制作)ができるのにPro Toolsでできないのが最大のデメリットでしたが、従来のプラグインの仕様を捨て、新たなAAXフォーマットに乗り換えたことで可能になりました。ようやくって感じですが。そしてそのせいで過去のプラグインをすべて新しくする必要があります。Wavesなどの大手プラグインメーカーは既に古いフォーマットをサポートしていませんのでこうなるのは時間の問題だったのですが。ついでにプラグインをかけ録りして外すことも簡単にできるようになりました。
しかし商業的なレコーディング・スタジオの大半が Pro Toolsを使っているのでデータをそのまま家に持って帰ってエディットができるメリットは大きいですが、そういう作業しない人にとってはあまりメリットはないかも。
付録:オーディオ・インターフェイスは必要か?
現在のDAWソフトはPro Toolsも含めてオーディオ・インターフェイスがなくてもパソコンから音を出して作業できるので基本的にはソフトさえあれば使えますが、そういう使い方では幾つか問題になることがあります。
レイテンシーの問題
コンピュータで音楽を作る上で避けて通れない問題がレイテンシー、つまり音の遅延です。コンピューターの中の音源ソフトで音楽を作るだけなら問題になりませんが、歌や楽器などを録音する上ではいかにレイテンシーを低く抑えるかが課題になってきます。しかしそもそもパソコン内蔵のオーディオ装置にはそういうリアルタイム性を考慮されていないので、そこそこ音が遅れます。専用のオーディオ・インターフェイスはその辺りうまく考えられていて、高級な装置ほどレイテンシーもない、というのが一般的です。ただいいオーディオ・インターフェイスを買ったとしてもレイテンシーは問題になることがあるのでなるだけ遅れないやつを買うべきでしょう。Thunderboltを採用しているインターフェイスは大抵低レイテンシーです。
目安として、2msくらいの遅れからレイテンシーは気になり始めると思います。10msだと楽器を演奏するためにはわりと気持ち悪いです。スペック表にレイテンシーがサンプル単位で表記されている場合、48kHzの録音で100サンプルは0.2msと考えましょう。100サンプルならそんなに気にならないと思います(遅れているのはわかったとしても)。
入出力数の問題
通常パソコンは入出力がステレオの2chのみです。エディットだけならそれでも問題ありませんが、本当に自分がそれでいけるのかは考えて方がいいでしょう。
音質の問題
内蔵機能と専用オーディオインターフェイスでは音質が随分違います。AppleのMacBook Proなどはそこそこいい音が本体から出るものもありますが、内蔵はレイテンシーも多く、音質の違いも結構大きいと思っていいと思います。2万円と10万円のインターフェイスでも笑っちゃうくらいの違いがあったりしますので、インターフェイス選びは重要です。予算に余裕があるならBabyface ProとかApolloのシリーズは結構いいですよ。最近はFocusriteの赤いやつもかなりいいです。