Wax Poetics

  忙しくてすっかり紹介が遅くなってしまったけど、Wax PoeticsのUS版 Issue 34に僕も参加させていただいている9dwが紹介された。3月のテキサス州オースチンで行われたサウス・バイ・サウス・ウェストのライブではアンコールまで起きてしまう事態におちいり、我々メンバーもそのリアクションの大きさに圧倒されてしまうというくらいそれは一大事だったわけだったけれども、帰ってきたらアメリカのWax Poeticsに載ってたってわけ!
 もうひとつ驚いたのはWax Poeticsという存在のリスペクトの大きさ。僕は正直なところあまり注目していなかったわけだけど、アンドレをはじめとするWax Poeticsのスタッフが9dwを大きく評価してくれたことで日本の僕の周囲からも大きな反響があった。あのミックスはどうやってんだとか、なんでWax Poeticsがおまえたちをほめているんだとか、悔しいけどイイとか(笑)。僕はどんな評価であってもありがたいなと思う。そして一人でも多くの人に9dwの作品を聴いてほしいと願っている。

iLokが壊れるとこうなる。

2016年10月28日追記:iLok3がアナウンスされました。これからiLokキーを買おうとしている方はご注意ください! アナウンス記事

ilok.gif DAWをそれなりに本気出してやろうとすると、いつかどこかで誰もがお世話になるのがiLok(アイロック)キーだ。これはアメリカのPace(ペイス)という会社が開発した、PCのUSBポートに挿して使う、ソフトウエアのライセンスキーで、iLokでライセンスを管理しているソフトはこれがないと動作しない仕組みになっているというもの。

 
コピーガードの変遷
 
 これが登場する10年ほど前までは、特にいわゆる「プラグイン」といわれるソフトウエアに施されていたコピーガード(要するに違法にコピーして使えないように対処していた方法)はただのシリアル番号で、これは製品を買ったときに付いてくる特定のシリアル番号を入力しなければソフトがインストールできないというものだった。しかしこの弱点は、シリアル番号が他人に渡ると誰でもインストールできてしまうということ。インターネットが普及してくるとこの方法で違法コピーを防ぐことはできなくなってしまった。
 そこで次にでてきたのが、当時誰でも持っていたFD(フロッピーディスク)を使ったプロテクション方式だ。これはコピーできない特殊な処理をされたFDの中にインストーラーを入れ、インストールできる数もFDの中身を書き換えることで管理できるというもの。これが出てきたことで違法コピーは大きく減ったらしい。しかし問題を起こしやすいFDは正規に買ったユーザーにも問題を起こしやすく大変不評な上、いくらか時間が経つとこの特殊なFDをコピーできるように改造する輩がネット上に登場し始めた。
 次に考え出されたのが「チャレンジ・レスポンス方式」と呼ばれるコピーガードだ。これは製品にシリアル番号が付いているところまでは従来と同じだが、インストール時にそのシリアルを入力すると、読み取られたそのPC固有の情報とシリアル番号をもとに、そこから吐き出した意味不明の文字列チャレンジ・コードが画面に現れる。ユーザーはメーカーの登録サイトにインターネットでアクセスしてそのシリアル番号とチェレンジ・コードを入力すると、チャレンジコードから生成されたレスポンス・コードがサイトから返される。このレスポンスコードをインストーラーに入力しないとインストールが完了しない仕組みだ。
 このアルゴリズムは暗号化されていてそう簡単には突破できないためにずいぶんと普及したが、正規ユーザーにはネット環境が使えないとどうにもならないし、PCを買い換えたりするたびにレスポンスコードを請求しなければいけないという面倒くさいプロテクションだった。そしていつしかこのコピーガードもクラックされることになった。
 
究極のコピーガード
 
 いろいろ考えてきたPace社ももはや煮詰まってきたその頃、これしかないということで考え出されれたのがこのハードウエア・キー、iLokだ。当初はinterLokと呼ばれていた気がするが、いつしかこう呼ばれるようになった。このキーは登場から10年は経たないものの、それに近い年数が経過した今でもクラッキングされていない。というか、そもそもできない構造なのだ(2015年12月追記:iLok1はすでにセキュリティの脆弱性等の問題から廃止され、現在では販売されていない。新しいiLok2に関しては後述)。プログラムのことはよく分からないので素人の想像として聴いて欲しいが、どうやら例えこのiLokでガードされているソフトウエア自体に改造を施すことさえ容易にさせない仕組みがあるらしい。だからこそこのiLokは信頼され、普及してきた。
 iLokキー以外にもハードウエア・キーを作っているメーカーは何社かあるが、iLokは普及率で群を抜いているし、何よりキーを買って持っている人が多い。しかしメーカーにとってはライセンス料が高いらしく、ソフトウエアの原価に大きく跳ね返ってくる。つまり安物のソフトにはiLokは使えないのだ。
 
iLokの仕組み
 
 iLokはとてもよくできている。ライセンスをキーの中にダウンロードする方法にもいくつかあり、買った製品に付いてきたSIMカードのような小さなICチップをiLokキー本体に差し込んで登録させる方法もあったが、金がかかるせいか、最近の製品にこのチップを使っているものは全く見たことがない。
 最初から製品に登録済みのiLokが入っているものもある。iLok自体が買うと6000円くらいするものだから、このキーをあらかじめ製品に入れるとなるとそれなりに高級なソフトになる。通常はライセンスだけをインターネットからダウンロードする方法が一般的になっている。iLokはあらかじめ買って持ってろという方式だ。
(2014年7月追記)
 ilok2最近のiLokはキー自体がiLok2となり、形もコンパクトに変わった。登録できるライセンス数も118から500に増えたが、なぜiLokがiLok2になったかについてはこういう機能アップだけが理由ではない、と個人的には考えている。
 ひとつには以前のiLokは鍵の胴体に幅がありすぎることで、USBハブに挿すと隣のポートに挿したUSBメモリなどと干渉してしまうことが多かった。iLokはこの問題からジャックが縦に並んでいる、比較的珍しいタイプのハブを使う必要があり、これが一部のユーザーからは不評だった。
 そして本体に字の書き込めるエリアが出来たのは改良された点だろう。これもあればいいなとみんなが考えていたこと。そしてiLok2の改良点としてさり気なく書かれているのが「USBの接触部分を強化」したこと。具体的にどうなったかはわからないが、この記事を定期的に見に来る人がいるということはやはり接触部分の耐久性についてトラブルを起こしているユーザーが多かったのかもしれない。あとiLok2でないとライセンスがダウンロード出来ないプラグインがあるところを見ると、セキュリティ等の脆弱性を改良しているのかもしれない。



iLokの使い方

 まずiLokを使うには専用のドライバソフトをインストールしなければならない。ソフトは無料だ。次にiLokのサイトへアクセスし、ユーザーアカウントを作る。iLokをPCに挿しておき、そのキー自体もサイトに登録させて管理させる。iLokキーの中にはいくつものソフトのライセンスキーをダウンロードさせることができ、すべてこのサイトでライセンスの出し入れが行われるのだ。プラグインを買ったときにメーカーへこのアカウント名を知らせればメーカーがそこへライセンスを転送してくれるというわけ。
 
iLokが壊れた日
 
 で、僕はというと、iLok1キーをなんと5つも所有していた。5つともiLokのサイトに登録していて、iLokの中身は同じアカウントの中では自由にライセンスの移動ができるので、5つのうちの3つにライセンスを振り分けていた。残り2つは空の状態。
 困ったことにWaves社のライセンスだけは僕らに自由にさせてくれない特別な扱いになっている。ライセンスの移動ができないのだ。買ったときの登録方法も特殊で、iLokのサイトに行かずにWavesのオーソライザーを使ってiLokキーにライセンスをダウンロードさせられた。なんか非常に面倒くさい(現在のWavesの製品はユーザーに不便を与えるこの特殊なやり方を見直し、通常の方式になっている)。
 買うと50万円もするWavesのソフトはiLokに対しても不信感を当初持っていたのかもしれない。とにかく僕のWavesは一つ前のバージョンだ ったので一番最初に買って持っていたiLokに入れたまま、約6年間使い続けてきた。
 仕事柄iLokは持ち歩くことも多く、毎日のように抜き差ししては自前で作ったケースにしまって丁寧に扱ってきたが、さすがに6年経過したiLokはくたびれていて、接触部分も傷だらけになっていた。だからといってWavesのキーだけは動かすことができないのでどうすることもできず、その古いキーを使い続けることしかできなかったのだ。

 
 2014年7月追記:現在のWavesの製品はiLokを使わない独自のライセンス方法を採用するようになったため、iLokの話題にwavesは関係なくなってしまった。以下は読み物として読めるように残しておくが、基本的にiLokが壊れた場合はiLok社に連絡を取るだけで済むことになっている。

 
 そして「その日」がついにやってきた。キーが壊れたのだ。挿しても認識せず、ProToolsを立ち上げてもプラグインの読み込みでつまずいてしまう。ヤバい。これから仕事だというのに。
 壊れたその日はミックスで一人仕事だったので、とにかく自宅に帰って考えることにした。iLokサイトに行ってiLokキーを認識するかどうか試したが、やはり認識せず(現在は専用のソフト=ライセンスマネージャーで管理することになっている)。
 こんな時のためにPaceはゼロ・ダウンタイムというサービスを提供していた。これはキーが盗まれたり壊れたりしたとき、年間に30ドル払っておけば臨時の期間限定のキーを即発行してくれて、その間にキーの「修理」をしてくれるというもの。しかし僕はこれに入っていなかった。というのもWavesはv5までこのサービスの対象外だったからだ(当時はWavesだけはキーを分けるように推奨されていた)。例えキーが壊れてもWavesがすぐに使えなければ意味がないと思って申し込んでいなかったが、とにかく今はキーの中に入っている全てのライセンスがないと仕事ができないのだ。困った。まずは修理を依頼することにした。
 修理はゼロ・ダウンタイムに入っていない人でも、追加料金を払えば即臨時ライセンスを発行してくれる。背に腹は代えられない。これに申し込んだ。これに申し込んだ時点でWaves以外のソフトは全て使えるようになった。修理番号もサイトからゲットする。
 次はキーを修理に出すこと。Paceはカリフォルニアのサンホセにある。ここへ郵便局のEMSでキーを送った。
 そして次はWavesへ連絡だ。臨時のキーを発行してくれ〜!
 ネットで検索するとデジデザインのサイトに「Wavesの iLok破損に対する修理について」というのがあった(2016年10月追記:現在はないが、iLokの修理に関する日本語の情報はここからpdfで情報を得ることができる)。Wavesに送る英語のテンプレートもここにある。ここの情報は古いので前述のチャレンジ・レスポンス・コードの発行のことが書いてあるけど、これは無視していい。サポートリクエストのリンクも切れているし。でもテンプレは英語の苦手な人にはありがたい。
 ところがWavesのサポートセンターへの問い合わせはWUPというものに入っていなければできない。これは年間200ドル程度(僕のライセンスの場合)をWavesに払うとその間のバージョン・アップグレードは無料で、サポートも受けられるというもの。高い金を払ったWavesは買ってからも金がかかる。しかし僕は一番新しいバージョンに上げる必要がなかったのでここ2年以上WUPには入っていなかった。しかし今は入らなければどうしようもない。仕方なく200ドルをサイトで支払った。
 しかし返事はすぐに返ってくるはずもない。待っているまでの間、どうするかだ。そうだ、デモ版だ! 僕は新しいv6のデモ版のライセンスをiLokに請求した。これは自動的に行われるのでものの数分でライセンスが届いた(あとで気づいたがデモは2日で切れた)。
 とにかくこの時点で仕事ができるようになった。時間のロスだがまたスタジオに戻ってミックスを始めた。
 翌日Wavesから返事が来た。「臨時のライセンスはv5がいい? v6がいい?」だって。もうそんなのどっちでもいいから送ってくれ〜! そのメールの返事でまた1日ロスした。
 翌日。EMSはネット検索で荷物がどこまで届いているかチェックできる。僕のiLokはもうアメリカの空港まで届いていた。もう少しだ。頑張れ!
 Wavesからも連絡が届いた。「30日だけのライセンスを送ったよ」。やった。これで当分は大丈夫か。
 翌日。遂にPaceからメール。「壊れたキーの中身を確認したよ。ライセンスは再発行したからダウンロードしてくれ。それとWavesにも再発行の請求があると思うからよろしくってメールしといたよ。君からも連絡してくれ」。Pace、いい仕事してる。早速Wavesにもメール。
 その夜Wavesから返事。「ライセンスの再発行を送ったよ。ダウンロードしてね」。ところがiLokのサイトに行っても届いていない。「おい、届いてないじゃないか」メールで文句を言った。
  翌日。Wavesからまたメール。「はい送ったよ」。おい、謝れ(笑)。やっぱり送ってなかったらしく、ようやくiLokに届いた。やれやれ、これでもとの状態に戻った。
 
以上がiLokが壊れたときに起こったやりとりの全て。かかった金額は以下の通り。
(現在は料金や修理手続きが変わっている可能性があります)
 
Pace特急料金 100ドル
ゼロ・ダウンタイム 30ドル
ライセンス修理費 39.95ドル
EMS送料 1200円
Waves WUP加入料 200ドル
 
トラブルを避けるために:USBの抜き差しに耐えられる回数は1500回

  USBは簡単に抜き差しができる便利な規格だが、実はジャックとプラグにはどんなものにも抜き差しに耐久性がある。USB規格の公式なものだと1500回程度しか耐えられないということだ。意外と弱い。おそらく初期のiLokもこれくらいの耐久性しかなかった可能性もある。その後8倍の12500回まで耐えられるものが登場したが、iLok2にはこうした高耐久性の部品が使われているものと思われる。
 ただひとつ言えることは、トラブルを避けるためにもひんぱんにiLokを抜き差しして使う人はこの問題を真剣に考える必要がある。手っ取り早い方法は、10cm程度のUSB延長ケーブルに付けたままiLok2を使うことだ。抜き差しは延長ケーブルで行い、延長ケーブルとiLokは常に接続したまま持ち歩くようにする。
 もうひとつは、特に挿した瞬間に流れる異常電流、とりわけハブの電力不足によってiLok内の回路が壊れる危険性もある。USBハブに挿す時はなるだけバスパワーに気を使うべきだ(はっきりとはいえないが、これらしい問題でiLokを壊した人がいる)。
とにかくiLokが壊れると英語で何度もメールを送ったり、金を払ったり、大変だよってお話でした。
 
紛失・盗難の場合
 
キーをパソコンごと盗まれた、なんていう人もいるかもしれない。車上荒らしにあったミュージシャンが機材車を盗まれて大事なライセンスキーを持って行かれた話は聞いたことがある。都内のライブハウスの楽屋にも楽屋荒らしが写った防犯カメラの写真を壁に貼り付けてあることがあるくらい、音楽の世界も盗難の被害の対象なのだ。知り合いのアーティストで海外の空港に預けた荷物がどこかに行ってライセンスキーを失った人がいた。海外は日本よりもっとそういうトラブルも多いのかもしれない。または酔っ払ってかばんごとどっかに置き忘れてきたが出てこないという事態も結構あるパターン。
 iLokキーの紛失・盗難ももライセンスの再発行で手続きできるが、ここでダウンロードできる手続きを説明したpdfによると、Paceで手続きしたあと、キーの再発行自体は各メーカーに個別に依頼しなければいけないようだ。