アンドレ・セラーノ

 セラーノはニューヨーク出身のフォトグラファーで、僕が知ったのは18年くらい前。「攻め」の写真をたくさん発表していますが、ほとんどの人がセラーノの話をするとドン引きしてしまいますが今日はあえてその話を。
 彼の出世作は大量に水槽に貯めた自分の小便にキリスト像を沈めた”Piss Christ”。厳格なカトリックの家に生まれ育った彼が、こともあろうに小便にキリスト様を沈めるとは何たる事を! 
 しかし水槽越しに撮影されたその像は、小便の黄色いフィルターを通り、さらにその小便に含まれている濁った成分と気泡に包まれ、なんとも幻想的に神々しく光り輝いているのです。
 彼はその作品を撮影するためにアトリエの隅に置いた水槽に延々と小便を貯めたそうで、それは日を増すごとに異臭を放っていたとか。その作品の非道徳さがついに非難を浴び、彼は奨学金を失ってしまいました。
 その後発表した小便と血と牛乳と精液で描いたモンドリアンのオマージュも秀逸。単純な色の対比だけで写真を構成したシンプルな作品ですが、その先にモンドリアンが透けて見えるのがなんとも彼らしいのです。
 そして彼は本物のKKKにコンタクトを取り、ポートレイトをも撮影しています。それだけをきけば単純になるほどって感じですが、実は彼はホンジュラスとアフリカ系キューバ人のハーフで黒人。「あのすみません、KKKさんですか? 僕黒人なんですけどあなたの写真撮らせてください…」こんなやりとりでしょうか。ずいぶん時間をかけて交渉したそうですが、仕上がった作品はファインダーを通して黒人ににらみを利かす三角頭巾の差別主義者。その目たるや、本物の憎しみがにじんでおりました。
 あと「セックスの歴史」シリーズもすごかった。馬のチンチンを握りしめる裸体の女性や、おばあさんのおっぱいを吸っている男性とか、様々な変態プレイをポートレイト風におさめた一連の作品は、見る人が見ればただのマニア向けエロ本のよう。日本には写真集もまともに入ってきていません。
 そして昨年発表された最新作は題して「SHIT」。そう、ウンコの写真です! 昨年の海外で行われたギャラリーの様子がYOU TUBEにアップされていましたのでぜひ見てください。
よく見るとある作品のタイトルに”Mother’s Shit”ってのが…「あ、お母さん? 久しぶり。ちょっと悪いんだけどさあ、お母さんのウンコ撮らせてくれない?」こんなかんじでいったんでしょうか。いやあこれはすごい。見渡す限り巨大に引き延ばされた生々しいウンコの数々! まるで食欲を失ってしまいました。でも目の付けどころがさすがセラーノ。参りました。しかしこの写真、誰が買うんでしょうねえ。いつもそれが気になる。

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