ROLAND
TB-303

当時の価格
中古の相場 12万円前後
発売年
発音ボイス数 モノフォニック
MIDI / CV CV/Gate out
レア度 ★★★
ビギナー向き ★★★★★

info(at)proun.net

 TR606とTB303はシンセサイザーをもっと安く手軽に楽しみたい人にターゲットを絞った廉価版シリーズとして同時に発売されました。
  当時はギタリストが伴奏付きで自宅練習したいという需要がかなりあったようですが、それを満たすための道具という物が殆どありませんでした。リズムはリズムマシンがあったので良しとしても、ベースを自動演奏させるにはシンセサイザーとシーケンサーを買わなければならず、ギタリストにとっては敷居の高い分野だったのです。
  そこで登場したのがTR606とTB303で、この2つは見た目の統一感があるシリーズ物として販売され、価格も当時としては安く、2つセットで買っても10万円くらいでした。シンセサイザーとシーケンサーを別々に買わなくても両方入っているTB-303はかなりお手頃な製品だったというわけです。
 当時はアメリカでもカントリーミュージックのアマチュアミュージシャンたちがバンジョーやギターの練習用に伴奏をプログラムするために買ったりしていたそうで、その分野ではそこそこ売れたようです。
 ところが当時のシンセサイザー・フリークからしてみると、シーケンサーとしてもしょぼいし、音質も大して良くない、やっぱり単体機にはかなわないという評価で、正直なところ「金のないやつが買うマシン」という位置づけでした。
 次第にTB-303は忘れ去られてしまいます。チープ感がうけて細々と存在をつなぎ止めていたTR-606に比べると使い回しの利かない単純なベース音しか出ないTB-303は無用の長物となり、中古市場に大量に出回ることになるのです。

 この中古市場で二束三文で売られているマシンに90年代に入って目を付けたのは、当時金を持っていなかったアシッドハウスのトラックメーカー達でした。彼らはそこらへんに転がっている安い中古シンセサイザーで何とか工夫しながら新しいダンスミュージックはできないものかと試行錯誤していたのでした。そこでTB-303を使い、本来の使い方とはまったく違う、ローランドさえ思いもつかなかった使い方で新しい生命を吹き込みました。
  非常に早い16分のシーケンスでところどころにポルタメントを記憶させ、ベースより高いオクターブにセットし、レゾナンスを極端に上げる...このサウンドに他のマシンでは決して出ることのない「ねばり」があることに最初に気づいた人は本当にセンスがあるとしか言いようがありませんが、 当時はチープだとしか思われていなかったマシンにこんな価値があるとは誰も想像しなかったでしょう。

 その後このTB-303は急速に評価が高まり、テクノには欠かせないアイテムになっていきましたが、すべての需要を満たすほどは生産されていなかった機種だったためにどんどん入手が難しくなり、現在では定価の3倍近い値段にまでつり上がっています。


 内部に使われているパーツも大半が簡単に入手できるものばかりで、自作すればほんの数千円で音源部分が組み立てられることから、TB-303の代用品を様々なメーカーがリリースしました(一部カスタムチップが使われていて、それは入手困難)。しかし同じサウンドのものは一つもありませんでした(ReBirthはこうかなりいい線いってました)。TB-303はCV入力を付ける改造が出来るようですが、内蔵のシーケンサーでやらせる方が独特のグルーブ感が出せるという人もいます。他にもいろんな改造方法があり、ネットで調べてみるといろいろ出てくると思います。

 ダンスミュージックで定番になっているヴィンテージの機材という物は、往々にして開発者の意としない使い方をミュージシャンサイドが開発して再評価されて生まれてくることが多かったのでした。逆に開発側がダンスミュージックのために作られた楽器のほうが評価が低かったりするというのも皮肉な話ですが、やはり定番には定番になりえるためのセンスの高いサウンドが備わっていたということは言えると思います。そしてローランドの製品にはそういうものが多かったといえます。