S&H
Sample & Hold (一定の間隔に信号を切り刻んで変化させる装置)
S&Hはコンパクトなシンセサイザーには付いていないか、付いていたとしてもひっそりと内蔵されている場合が多いモジュールです。これはよくランダムな波形を作るときに利用されますが、原理さえ分かっていればもっと別なものに使うことも考えられます。これから説明するS&Hはモジュール・タイプのシンセサイザーに多く見られる「立派な」S&Hです。
通常、S&Hには入力が1つ、タイミングをとるためのクロック入力が1つ、さらに出力が1つ付いていています。右のパネルには外部クロック以外に専用の内蔵クロックを搭載していて、そのクロックを取り出す端子も追加されています。
あまりにも漠然としていると思いますので、概念的な説明をします。S&Hは台所にたとえて言えばよく通販番組でやっている「スライサー」です。いろんな野菜を刃を替えることによってみじん切りにしたり、おろしたり、たんざく切りにしたりする調理器具です。これがS&Hです。まず加工したい素材(=ニンジン)があり、それを切る「刃」を替えることができる、という装置です。ここでは具体的な例として、ランダムな変調信号を作り出してみましょう。
よく使われるやりかたは、入力にノイズを入れ、クロック入力へはLFOのパルス波を入れます。ここで、パルス信号のクロックのタイミングでノイズのランダムな成分をSample(=検出)し、それを次のクロックが入るまでHold(=保持)させることで、一昔前のコンピューターみたいな効果音を作ります。入力に入れる信号が「ニンジン」、クロックに入力する信号が「刃」です。S&Hはスライサーと違って刃を数種類から選ぶのではなく、いろんなものが「刃」として使えるようになっているわけです。
ノイズはパルス波のクロック(パルス波はカクカクした波形なので、ON、OFF、ON、OFF...の繰り返しを表すクロック信号として利用することができます)のタイミングに合わせてSample & Hold(検出と保持)されます。クロックが1つ入ると、その瞬間にノイズの成分を検出し、次のクロックが入ってくるまでその検出したレベルを保持します。ノイズは耳に聞こえるオーディオ信号ですが、ここではコントロール信号として使うためにランダムな電圧として扱われています(実際にオーディオ信号をコントロール信号として使われることはテクニックとしてよく使われます)。ノイズは様々な大きさの音がランダムに混ざりあってできているので、検出をする度に違った電圧レベルが検出されます。この検出された電圧レベルが保持されるのは次のクロックが入ってくるまでですから、LFOのFrequency(ピッチの調整)でその長さが決まります。
こうして加工された信号はLFOやEGなどと同じように使えます。
典型的なサンプル&ホールドの応用例。ピンクノイズをLFOのパルスで刻んでランダムな電圧を生み出す。その信号でVCOのピッチをモジュレートした音。