PPG
Wavecomputer
340-380

当時の価格
中古の相場
発売年 1980?
発音ボイス数 ?
MIDI / CV 不明(MIDIなし)
レア度 ★★★★★
ビギナー向き

 

 

info(at)proun.net

初期のPPGはいくつかのモジュール型シンセサイザーを製作した後、コンピューターを導入した本格的なデジタル・シンセサイザーの開発にかかります。1980年前後といえばまだデジタル方式のシンセサイザーは殆ど開発されていませんでしたが、340/380はまさにそんな中で誕生した製品でした。
 もともとタンジェリン・ドリームのステージの照明をコントロールするためのシーケンス信号をはき出させるために開発したコンピューターをベースに、ウェーブテーブルのはしりとなるデジタル音源ユニットを搭載して製品化されたもので、ごく少数(おそらく数台)のみ生産されたようです。ユーザーは殆ど知られていませんが、タンジェリン・ドリーム以外でこの製品を使っていたので有名なのはやはりトーマス・ドルビーでしょう。当時無名だった彼がどうやってこのマシーンを入手したのかは不明ですが、彼はそれまで「カメラ・クラブ」というバンドでキーボードを弾いていて、その主であるブルース・ウーリーはあのバグルスが歌って大ヒットした「ラジオスターの悲劇(Video Killed The Radio Star)」の作曲家として有名です。その関係でバグルスのトレバー・ホーンとも交流があり、入手した経緯にはそのへんの人脈が関わっていたのではないかと思います。

 機能については詳細は知られていませんが、インターネットなどで調べたところによりますと、現在でも中古で入手できるWAVE 2.2などと仕様的には似ているようです。ただユニットはコンピューター(VDU)にプロセッサー、ジェネレーター、イベント・ジェネレーター、そしてタッチセンス付き鍵盤という構成になっています。
エンベロープにASDRとARタイプがあるところやバンクがA/Bに分かれている点など、WAVEシリーズとの共通点も多いのですが、最大の違いは音作りに関するフィジカルなコントローラーがなく、全てディスプレイに数字や文字を入力することによってサウンド・メイキングを行わなければならないこととアナログ・フィルターが入っていないことです。トーマス・ドルビーはさらに内蔵のシーケンス・ユニット(380)が出すトリガー信号をプログラムすることでシモンズSDS-5のモジュールを発音させていました。

この340/380を使った彼のサウンドは彼のファーストアルバムである『光と物体 (Wireless)』に収録されています。中でも収録曲"Windpower"のベース音で特徴的な340/380のサウンドが聞けます(WAVEとは違うけれども明らかにウェーブテーブルの音)。なお、このアルバムには矢野顕子さんや現ミュート・レコーズのオーナーのダニエル・ミラー氏も参加しています。本当にすばらしい完成度の高いアルバムです。

トーマス・ドルビーが「ヘンリー」というあだ名で呼んでいた340/380は彼の初期のサウンドにはなくてはならない楽器だったわけですが、1984年にエレベーターから落下する事故に見舞われてしまい、残念ながら彼がそのサウンドを奏でることは二度とできなくなってしまいました。