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KBD 〜 キーボード

 通常のシンセサイザーには音を出すための手段として、オルガンと同じ鍵盤がとりつけられています。鍵盤は本体と一体化しているもののほか、本体とは独立していてケーブルで接続するものも一部にあります。
 

 具体的な例でいえば、30年も前に発売されたKORG PS3200はキーボード部分と本体を専用のコネクタでつなぎ、ジョイスティック・コントーラー(ラジコンに付いているやつ)などは鍵盤の左側に備え付けられています。このように鍵盤と本体がセパレートになっている機種はまれです。殆どの機種は鍵盤が本体に組み込まれ内部結線されています。

キーボードは一種のスイッチ

 シンセサイザーの鍵盤は音楽を演奏する道具であるとともに、音を発するためのスイッチ群でもあります。鍵盤一つ一つにはピアノ弦を取り付ける代わりに電気信号(コントロール信号)を出す仕組みになっています。信号を受けとる側に、どの鍵盤を押したかわかるようになっています。
 鍵盤から出る信号には大きく分けるとCVとGATE(またはトリガー)信号の2つがあります。CVもGATEも実はただの直流の電気で、豆電球を光らせる乾電池の電気と同じ物だと考えてください。この信号は鍵盤を押すとスイッチのようにON/OFFされるようになっています。とりあえず以下で説明するCVとGATEがどういうものか覚えて下さい。この用語は今後いろんなところで登場してきます。

CV

 CV(Control Voltage)は鍵盤のキーの高さをシンセサイザー本体に伝えるための電気信号です。前述の通り出ている信号は乾電池の電気と大した差はありません。押す鍵盤によって「電圧」が変わるようにできていて、電圧の高さでどの鍵盤を押したかを伝えるようにできています。今だから言いますが、シンセサイザーのコントロール信号はすべて電圧の強弱で相手に指示を与えるように作られています。
  具体的に言えば鍵盤が右へ行くほど、つまり音が高い鍵盤になればなるほど高い電圧がCV OUTから出るようになっています。各鍵盤にはそれぞれに決まった電圧値が割り当てられていて、たとえば中央のCの鍵盤には××ボルト、といった具合にです。
 通常、このCV信号は音の高さを決めるVCO(後述)に送られます。鍵盤のキーの高さによって変化したCV信号を受けたVCOはそれに応じて発生させる音の高さを変えます。つまり結果的に押したキーに応じてVCOから正しい音程の音がその都度出るということになります。演奏情報を伝えたってことです。
 具体的にどれくらいのCVの電圧の変化量がどれくらいの音程差に割り当てられているかを詳しく勉強する必要はありませんが、CVには決まった規格があり、メーカーが違う機器同士でもつなげられるように作られています。
 KCV(キーボードに使われているCV)には大きく分けると2つの方式があります。ひとつは1オクターブ音程があがるごとに1ボルト電圧が上がるOct/V方式、もうひとつは1オクターブ音程があがるごとに電圧も(対数的に)倍になっていくHz/V方式です。後者にはKorg MSシリーズ/ Yamaha CSシリーズの一部の機種にある方式ですが、大半がOct/Vを採用しています。
 古いアナログシンセサイザーを手に入れて、それを打ち込みで演奏させようなどとする時、ここで説明したCVの規格の話は重要になってきます。

ここでは便宜上CVを「キーボードから発せられる音程を伝えるための信号」というふうに説明していますが、実際にはCVはそれ以外にもいろいろな使い方があります。「ある装置から別のある装置へ何かの変化を伝えるために使われる電気信号」を全部CVだというんだと思っていていいです。ただ、実際には便宜上の説明と同じ意味でCVという言葉が一般的にも使われています。
 特にキーボードから出力されるCVのことをKCV(キーボード・コントロール・ボルテージ)と呼ばれることもあります。
 今は説明しませんが、CVはVCO以外にも使うことがあることだけはちょっと覚えておいてください。それはあくまで応用編の話です。

GATE

 CVは「どの鍵盤を押したか」を伝える信号だったのに対してGATE(ゲート)は「いつ鍵盤を押したか」を伝える信号です。CV、とりわけKCVに限って言うと、鍵盤を押していない時にも信号は出っぱなしです。詳しく言うと、最後に押した鍵盤の電圧を鍵盤を離したあとにも次の鍵盤を押すまでずっと出し続けるわけです。違う鍵盤を押した瞬間に電圧は変化するわけですが、基本的に鍵盤をいつ押したか、あるいはいつ離したかという情報はCVには含まれていません。この情報はCVと同時に出力される別の信号、GATE信号に任せられています。
 GATE信号は鍵盤から手が離れている状態ではずっと0ボルトで何も出力されていません。ところが鍵盤を押さえている間だけ10ボルトになります(5ボルトになる機種もある)。つまりGATEに電圧がかかっている期間だけ鍵盤が「押されていますよ」というルールになっているということです。この信号を使えば鍵盤を弾いたタイミングに応じた信号の変化を作り出すことが出来るというわけです。
 逆にいえばGATE信号はどの鍵盤が押されたかについては全く関知していません。どの鍵盤であれ、押されているか、押されていないかしか気にしていないのです。中央Cの鍵盤を押しても、右端のCを押しても出ていくGATE信号は同じです。
 余談ですが、では複数の鍵盤を同時に押した場合はどうなるのでしょうか? 基本的にアナログのシンセサイザーは単音しか出ないのが基本なので(和音の出るシンセサイザーの話は後述)、複数の鍵盤を同時に押してもそのうちのどれか一つにしか反応しません。どのキーを優先させるかについてはいろんな方式があるのですが、いずれにしてもCV、GATE、どちらの信号に対してもその「優先順位」の操作はあるということです。

CVとGATEの具体的な応用方法

 まだ具体的にVCOやVCFやVCAの話をしていないので、もしかするとCVとGATEはちょっと理解に苦しむ存在かもしれませんが、あまり理解できていなくてもどんどん先に進んで下さい。ここではもう少しCVとGATEに対する理解を助けるために、これらの信号をどう使っていくのかを説明します。 

 結論から言いますが、ごく一般的な使い方ではキーボードから出力されるCVはVCOのCV INPUTに、GATEは後述するEG (Envelope Generator)のGATE INPUTに入れます。なんでかっていう話になりますが、ここではまだ詳しくはやりません。
CVとGATE信号は演奏情報を伝えるためにはつねにペアで考えなければならないことだけは覚えておいてください。さらに詳しいCVとGATEの話はもっと先に進んでからまたやりたいと思います。

CVとGATEはしばしばセットにして扱われることが多いのですが、GATE信号はTRIGと書かれた「トリガー信号」になっていることがあります。これはCVに2種類あるように、GATE信号にも2種類あると考えて差し支えありません。GATEとTRIGは同じ目的に使われるものですが、互換性がないため同じようにつないでも動きません。なお、機種によってはGATEとTRIGの両方に対応しているものもあります。

シーケンサー

 皆さんはシーケンサーというものをきいたことがあるかと思います。演奏情報をあらかじめプログラミングしておいて、鍵盤をひかなくても自動的にシンセサイザーを演奏させるための装置のことです。これもCVとGATEを正確なタイミングで次々に出力する装置ですから、鍵盤のかわりにシーケンサーをシンセサイザーにつなげれば自動演奏させることになるわけです。指で鍵盤を押して信号を出させるか、シーケンサーが信号を出しているかの違いだけです。

80年代前半までのシーケンサーにはアナログとデジタルの2種類がありました。アナログは8ステップ、または16ステップくらいの音数を一定の間隔で次々と出すだけの単純なもので、その限られた個数のつまみで作った短いフレーズを繰り返すのが精一杯という装置でした。
その後、マイクロコンピューターを搭載したデジタルシーケンサーが登場し、ステップ数が100以上、上位機種では1曲丸ごとプログラム可能になりました(1音1音の長さも変えられるようになり、複数のチャンネルを持つものもありました)。Rolandはこの手のデジタルシーケンサーの技術としては他のメーカーの追随を許さないほど当時は先端を行っていました。同社のMC-8MC-4CSQ100CSQ600はCVとGATEを出力するデジタル・シーケンサーの代表格といえます。


ステップ数の少ないアナログ・シーケンサーはデジタル・シーケンサーの台頭によって徐々にすたれていきましたが、その単純な機能が近年見直される傾向にあります。特にミニマルなフレーズを繰り返すことの多いテクノではまだまだ需要があるため、海外のメーカーでは未だにアナログ・シーケンサーを製造しているところが数社あります。(写真は現行機種のAnalog Systems社RS200)

まとめ

  • CVはどの鍵盤を押したかどうかを電圧で出力するための信号
  • CVにはOct/V方式とHz/V方式の2種類がある
  • GATEは鍵盤を押したかどうかを伝えるための信号
  • GATEはどの鍵盤を押しても同じ信号が出力される

さあ、ここまで来たら次はVCOに行ってみてください。

余談
シンセサイザーは通常鍵盤楽器として扱われていますが、シンセサイザーで演奏するための手段として「鍵盤」をコントローラーとして取り付けたのはMoog博士が最初だったのではないでしょうか。彼の友人だったキース・エマーソンの影響もあるかも知れませんが、楽器としてMoogが成功した理由には鍵盤を取り付けた部分が大きいと思います。同時期にシンセサイザーを開発していたBuchlaが競争に負けた理由の一つには、鍵盤楽器としてのシンセサイザーにこだわらなかったこともあると言われています。
 それほど鍵盤はシンセサイザーにとって欠かすことのできない物になってしまいました。